【私の指導哲学】陸上競技部 品田直宏監督 「世界を目指せる環境がここにはある」

環太平洋大学陸上競技部スタッフ陣のバックグラウンドや、指導方針を紹介する企画、「私の指導哲学」をスタートします。最初に登場していただくのは品田直宏監督です。現役時代に輝かしい実績を誇る品田監督ですが、その経験だけにとらわれず、選手との対話を重視し、きめの細かい指導を心がけているそうです。すべての学生へ「過去の自分を越えるために、正しい努力をして欲しい」とメッセージを送り、自身が立てなかった世界の舞台に選手を送り出したいという夢を追い続けています。

IPU・環太平洋大学 陸上競技部 品田直宏監督

筑波大学大学院修士課程修了(体育学)。2003年世界ユース選手権走幅跳において、全種目を通じ日本人初となる金メダルを獲得。大学在学中は4×100mリレーにおいて世界ジュニア選手権銅メダル、日本選手権、日本インカレ優勝、走幅跳国体優勝。指導者としても、前任校では6年間で3名の全国チャンピオンを輩出し、その指導力は高く評価されている。現日本陸上競技連盟 ジュニア強化育成部跳躍コーチ。2019年4月、環太平洋大学陸上競技部監督に就任。

目次

こだわるのは正しい動き 1年目は歩き方から指導

2019年より環太平洋大学で指導を行う品田直宏監督は、現役時代に華々しい戦績を残してきた。スプリント種目と走幅跳を専門とし、高校3年時の2003年には世界ユース選手権走幅跳で全種目を通じ、日本人初となる金メダルを獲得。筑波大学進学後の2004年には世界ジュニア選手権(現U20世界選手権)でも入賞を果たし、2007年のユニバーシアード(現ユニバーシティゲームズ)にも日本代表として出場している。しかし指導者となった今、現役時代の自身の姿は“反面教師”として見ていると話す。

品田監督 たしかに私は選手としてのポテンシャルは高かったかもしれません。しかしシニアの世界大会には出られませんでしたし、走幅跳で8mの記録も残していません。現役生活後半は故障にも苦しみました。そうしたことを振り返ると、自分の歩んできた道のりは決して正解ではないと考えています。ですので、今は現役時代に自分がやるべきだったけれど、やらなかったことを強く意識して指導をしています。

なかでも特に力を入れているのが動き作り。故障を回避し、競技力を向上させるためには、無理なく効率的な骨盤や肩甲骨の動かし方の習得は不可欠との信念ゆえの取り組みである。特に入学間もない1年生には歩き方の改善からスタートし、走動作のドリルを徹底。動きを根幹から変えている。

品田監督 骨格や筋力などの個人差はありますが、根本の部分で人間としての正しい動きは共通します。そのため、まず1年生は基礎を作るために動き作りを細かく教えています。大学での1年目というのは環境が大きく変わるため、いきなり競技での実績を求めても難しいのが現実です。しかし環境に慣れながら動きを変えていけば、冬を越えて一気に飛躍できますので、新入生には”焦って結果を求める必要はない“と伝えています。

故障時でも正しい動きができていれば、痛みを感じずに動けることもあるほど骨格や筋肉の使い方は重要。そのため監督自身がかつて理学療法士から指導されたドリルをアレンジし、基本動作を覚え込ませる。この部分の指導の細かさは品田監督の指導の重要なポイントであり、特徴だ。

芝田愛花選手に指導する品田監督。芝田選手は3年時に日本選手権100mHで8位入賞を果たした。

細かい指導を行いながらも、選手を型にはめない点も品田監督の流儀。陸上競技部全体の監督を務めながら、女子の短距離ブロックと跳躍ブロックを主に指導しているが、ブロック間の垣根を作っていない。

品田監督 私自身、学生時代は短距離ブロックに所属しながら、走幅跳に出ていました。種目をかけもったり、それぞれの練習のいいところを取り入れたりなど、発想は自由であっていいと思っています。実際、私はハードルの専門家ではありませんが、環太平洋大学ではハードル選手も力を伸ばしています。重要なのはすべての種目に共通するのが走動作であること。練習量は他と比べても多くありませんが、丁寧に動きを作っていき、筋力を高めていくことで、力を伸ばしていけるのです。

自分自身、スプリントの指導者とも、跳躍の指導者とも定義していないと品田監督は考えている。

品田監督の指導により2021年の日本選手権・走高跳で優勝した武山玲奈選手
女子短距離の主力選手たち
跳躍選手たちに指導する品田監督

戦いたいのはどの舞台なのか 自分の可能性を信じて

品田監督の就任直前に学内にスポーツ科学センター「インスパイア」が開設された。そこに備えられた最新鋭の動作分析装置や、従来からあったウェイトトレーニング設備を目の当たりにし、日本のトップレベルを知る品田監督は「ここからならば世界を目指せる」と確信したという。

品田監督 監督に就任し、最初に学生の前で話をする機会があったのですが、“これだけの設備があるのに、なぜもっと有効に活用しないのか”と厳しい問いかけをしました。自分を高めたい、強くなりたいという意志があれば、それを叶えられるだけの環境がここには整っています。そして私自身も、環太平洋大学で世界に羽ばたくアスリートを育成したいと思っています。

― 大切なのは環境を自分のものとして生かすこと

今の時代、大都市圏にある大学だけが環境面で優位に立つことはない。そして何より大切なのは環境を自分のものとして生かせるかどうかだ。その高い意識と目標に向かう姿勢を養うことにも努めている。

品田監督 大切なのはどのステージで戦いたいと思うかです。全国レベル、そして世界レベルで戦いたいのであれば、大学がどこにあるかではなく、どんな環境が整っているかが重要です。その意味でこれ以上の大学は他にはないという自信があります。

400名近い部員に語り掛ける品田監督

4年間の先にある可能性を信じて取り組み続けること

一方ですべての選手が日本のトップレベルまでたどりつけないのも事実。だがどのレベルであっても他者に勝つのではなく、自分自身を見つめ、成長を追求していければ、それは素晴らしい4年間になる。競技力の差は、学生生活の充実度を分けるものではない。

品田監督 重要なのは過去の自分を超えていくことです。インターハイに出場するためには都道府県大会、地区大会と6位以内に入っていく必要がありますが、大学からはどの大会でも標準記録の突破が出場資格となり、他者との比較はあまり意味をなさなくなりますし、周りに勝っても、自分自身が成長できていなければ意味がありません。課題を見つけ、仮説を立て、トライしていく習慣をつける。そうした正しい努力の仕方を学び実践できれば、間違いなく成長できますし、それが充実した4年間の学生生活へとつながります。

過去の自分を超えた先に、新たな世界が広がっていき、いつか自分自身が想像できなかった自分になっていくのだと品田監督は力を込める。近年、女子のスプリント種目やハードル種目は世界との距離も縮まってきたが4年間だけでそこにたどり着くことは容易ではなく、その先まで見据えて取り組んでいくことが重要だ。これは競技に限った話ではなく、卒業後、競技を離れるにしても、正しい努力を積み重ねる習慣を学生生活の間で身につけて欲しいと話す。
充実した4年間の先にある自分の可能性を信じて取り組み続けること。その中から世界に羽ばたく選手が出てくるはずと品田監督は信じている。

私の指導哲学シリーズ

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